鈍い頭の痛みと呼吸のし辛さに目が覚めると、右手に携帯を握りしめてうつ伏せで寝ていた。
ブラックアウトした画面にはあのひとの電話番号。(発信する直前の画面、 全く覚えがない)
おまけにからだが重くてけだるくて動かない。喉が痛くて声がうまく出せない。 嗚呼そうだ、 あたし 、昨日から具合悪くて あれ? 次に目が覚めたのは、 ガサッという音が意識を引き戻したから だった。 「 あ れ 、 」 「 あ わり、 起こした? 」 「 え な ん で? 」 「 喉渇いたら ポカリ、あるからな 」 「 、 だって し ごと 」 「 熱にうなされて『か是非いた』って変なメールよこしたの どこの誰? 」 「 え、? 」 「 解読するのに時間かかったんだからなー 」 「 え、 そんな メール しら 、ない 」 「 ちょ あれ、 無意識!? 」 「 だっ て、 」 「 わかったわかった、 いいから 喉 喋んのもキツイだろ ほら、寝てな 」 「 で も 、 」 「 なんにも心配しなくて大丈夫だから ほーら、 」 わたしをベッドに寝かせると、ほれ とおでこに冷えピタを貼りつけられた。 (いつの間に出てきたんだろう) そして 毛布を引っぱってわたしの身体にかけると、ベッドに腰掛けてわたしの顔を覗き込む。 大きな手でわたしの頭をやさしく撫でてくれる。 心地いい。 それでも少しくすぐったくて身じろぐと、彼は はは、と笑った。 ゆっくりそーっと手を頭からおでこ、瞼、 下に下ろしていく。 そうして 最後には頬を包んでくれた。 「 うお、やっぱ熱あるな 」 と言いながら。 冷たくて気持ちいい、手。 安心感に包まれてふわふわしていたら ぽつり ぽつり、 と彼が話し出す。 独りごとみたいに、 子供をあやすみたいに。 やわらかく小さな子守唄みたいな音で。 「 しんどいよな、 独り暮らしで風邪なんて よ 」 「 熱でふらふらになるし、 何もする気にならねえし、 」 「 だけど ひとりだから誰も助けてなんて、くれねえんだよな 」 「 こういうときこそさ、 家族のありがたみ を思い知らされるよな 」 「 飯も作ってくれて、 タオルかえてくれて、 数時間おきに様子見に来てくれて、 」 「 それに誰か居てくれるだけで妙に安心してよく眠れるんだ、 」 「 な、 」 「 おれだってわかるよ おんなじ、独り暮らしだからな 」 「 辛かったろ、 ごめんな すぐ来てやれなくて 」 「 寝な、 おれ ちゃんと居るからな 此処に 」 嗚呼 このひとは、 うまくことばに出来ない わたしの さみしさ を知っている、 助けてと素直に言えない わたしの よわさ を知っている、 ぜんぶ、知っているのね 彼の手にわたしのなみだがぽとりと落ちて滲み込まれてゆく音がした、 気がした。 涙の温度に彼が気付いて、 「 どうした 泣くほど独りで辛かったか、 ごめんな 」ってすこしアタフタしながら言った。 だからわたしは「 ちがうの、 」って声が出ない代わりに首を横に振った。 何度も、 何度も。 彼のことばに涙が出たのは 確かに風邪で独りで心細かったから。 だけど、それだけじゃない。やさしさが嬉しかったから。 わたしのこころのからっぽを、彼だけは分かってくれたから。 熱にうなされながら変換もちゃんと出来ないおぼつかない指でメールするくらい、本当はいつも。 終いには無意識に電話をかけようとしてるくらい、本当はいつも。 いちばんにこころに浮かんでる。助けを求めてる。 このひとのことを、 想ってる。 「 そっかそっか、 そんなに首振らなくてもわかったよ、 」と彼がまた笑う。 涙を拭いてくれるやさしい手に、少しだけ力がこもる。 「 だいじょうぶ、 な、 おやすみ 」そう言う彼の声を、 意識の遠くに聞きながら 瞳を閉じた。 どうしようもなく苦しくて切なくて、 しあわせ 、だ。 |
20091124 |