「      おい、」






日差しが熱い。何故って今は夏真っ盛りだから。 加えて此処はこの校舎で一番背が高くて、一番太陽に近い屋上だから。 せめてもう少し涼しいところに避難しようと日陰を探すが、あいにく見つからない。 嗚呼喉が渇いた。






「 おい 」






目の前の男はけだるそう、もう一度、今度は先ほどより大きく強めに言い放った。 さっきから何なんだ。五月蝿いなあ全く。






「    、無視か テメエ 」






無視を決めたあたしの態度についに耐えかねたらしい。 あたしとの距離を一気に縮めて、手を伸ばしてきたかと思えばパシッとあたしの頭を叩いた。






「 何すんの、 痛いな!!! 」


「 おまえがシカトすっからだろーが!  ふざけやがって 」






この男はどうしてこうも短気なんだ。( 今に始まったことじゃないけど ) あたしも黙ってはいられなくなって叩き返した。やられたら3倍返しだわかったかこの野郎。    って これじゃコイツを悪く言えない。あたしもコイツ同様の短気か。


・・・・・・そしてグダグダとやり合った後、沈黙。     なんか気持ち悪い。









































「     つか、何でおまえ此処に居んの? 」






沈黙を破ったのは向こうだった。それからぼんやり空を仰ぎながらあくびをした。 ( どこまでも呑気なヤツ )






「          いやあさすがに2限はちょうど昼時とあって暑いね 」


「 聞いてんのかテメエ 」


「 いや、てか何でアンタ此処に来たの 」


「 ナニ聞き返してんだ 質問答える気あんのか 」


「 あるわけないじゃん アンタこそ何で邪魔しに来たわけ 」


「   うん 、だからおれの質問に答えようね 」


「 きもちわるいな   どっかいけ 」


「 いやいや此処おまえだけの屋上じゃねえから 」






ホントにうるさい男ださっきからねちねちと。頼むからあたしを放って置いてくれ。 今日のあたしはアンタと面白おかしくおしゃべりする気分じゃないんだ。






「        、    なあ 」






懲りずにまた口を開くから、もう一回叩いてやろうかと構えた瞬間、 あいつの真っ直ぐな目があたしを捕まえた。 だらけてへらへらしてる、いつものあの顔じゃない。真剣な時の、目。



























「   ほんとマジで、    何で居るわけ? 」


「 授業サボってまでさ 」


「 体育とか数学とかおまえの嫌いな教科ならまだしも、 」


「 2限のいまは、いつものおまえだったら絶対出席してる英語の時間だろ 」






おまえ英語、好きじゃん。出来るし。英語だけ な、 と一言余計な台詞をくっ付けてからかうように笑う。 だけど声は少しもふざけてなんかいない。 コイツの言う通りだった。いつもだったら絶対に英語の授業はさぼらない。 どうしてこの男はこういうところに限ってよく見てるんだろう。勘がいいんだろう。 ムカつくぐらいに。     コイツにだけにはいつだって隠しきれないなあ、  ( だけど素直になんて言えない  、)



















































































「                     I   , 」


「    、 ん? 」









































「     I wanna look up at the sky and cry here, 」


「                  because I was jilted yesterday. 」



















































































「           、は?」


「 いや、 だから今言った通り 」


「 英語赤点のおれのこと馬鹿にしてんだろ 」


「 もちろん 」






てめ、心配してやってんのにクソムカつく。    そういうとヤツは不貞腐れたようにあたしのすぐ前に寝そべって日差しを遮るように手で顔を覆った。 あたしも掌を空にかざしてみる。日差しは強くなるばかり、だ。


嘘はひとつもついていなかった。全部本当のこと。 あたしはここにきて空を仰ぎたかった。 登校した時からなんだか今日は駄目だなあと思った。 1限の世界史も頭に入らなくて、2限のだいすきな英語の授業だって出席する気にはなれなくて、 ただ何も考えずに空をひとりで眺めたくなってここに来た。 この気持ちの原因だって分かってて。






「 ホントあっちいなー   なあ おい、 ジュース、ジャンケン3本勝負でどうだ? 」






いまコイツの口から吐き出されたばかり声も、なんだか遠くに聞こえる。 そらが、あおい。 こころはこんなに哀しくて真っ暗な色をしてるのに、 どうして空は嫌になるくらい澄んでいるんだろう。 なんだか心臓のずっとずっと深いところが苦しい。 そしてそれは、じわりじわりと目の奥にやってくる。 ああだめだ。    だけど コイツは見てないから。コイツから見えないから。 今だけは気付かないで。こっちを見ないで。お願いだから。 ( 瞳から零れて頬を伝っていくのは汗だ、。    今日は暑いから、 )




















「           、」


「                     おまえさ、






















































泣くならちゃんとけよ












声殺してんじゃねえよ。 わーわー喚き散らして泣けよ、我慢なんかすんなアホ 」













馬鹿だからきっとさっきの英語の意味はわかってない。 だけど結局全部わかってんじゃんか。ムカつくよ、本当に。 どうして一人で泣かせてくれないんだ。 放ってくれればいいのにわざわざ屋上まで上ってきて、 見透かしたみたいにずばずば言いやがって。 あたしの顔を一瞬だって見ることなく、泣いてるのに気付きやがって。 むかつくむかつくむかつくむかつく、     だけど、























「 そんなおしとやかに泣くキャラじゃねえだろうが 」





「 身体中の水分なくなって干乾びるくらい、泣け 」


「     そしたら、きょうは特別に 」


「 おまえの好きなカルピス、買ってやっから。」





「    今日 暑いからな 」












こんなに涙が止まらないほど   救われてる、。     コイツの声だけの励まし 、に。








20091120
英文の意味は 昨日フラれちゃったから 此処で空を見て泣きたかったの、 です
カルピスがすきなのは管理人