「 ほら、飲みな 」






いつもこうやってあったかいココアを作ってくれる。 彼はココアなんて甘いものを好まない。だからこれはわたしが来たときくらいにしか出されない。






「 ありがとう 」






マグカップを受け取って、ココアを口に含む。いつもより少し甘い気がした。 あったかくて、やさしい。彼みたいに、やさしい。






「    、おいしい 」






彼はやさしい。 いつも夜中に半ば押し掛けるみたいにやってくるわたしを、いつも部屋に入れてくれる。 そしてわたしが大好きなソファーに座らせて、 いつまでも黙りこくるわたしに何も聞かないでいてくれる。 そのあとでわたしが落ち着いたのを見計らったようにココアを作って持ってきてくれる。 きっと彼には何だってお見通しなのだ。









































「     また、   あいつ か、?」






彼がわたしの顔を覗き込んで、控え目に小さく、聞いた。 いつもはわかっていても何も聞かないから。






「   うん、」






あいつ、聞かれなくても分かっている。わたしの恋人。 どうしようもない、わたしの彼氏。 わたしはあいつに浮気されるたびにここに来る。 ここに来て彼にココアをいれてもらう。 今日だってそう、だった。






「          そっか 」






彼は申し訳なさそうな顔をしてそれだけ言うと、黙ってしまった。 お願いだからそんな顔しないで。わたしのせい。あなたは何も悪くない。だから、



























「        、    いつも、ごめんね 」






沈黙の後 振り絞ったわたしの声に、彼は驚いたようにこっちをみた。 彼の様子にそのとき気付いた。    声が震えている。頬に水が流れている。わたしは、泣いている。 彼はわたしを見つめて止まっている。  (  嗚呼また彼を困られてしまう、)



















































































「 いいんだ、」






すべてがスローモーションだった。 彼のまっすぐな瞳に目が逸らせなかった瞬間も、彼が近づいてくる瞬間も、 彼に腕を引かれて あ、 と思った瞬間も。    彼の体温がじわりとひろがる瞬間、も。






「       ここ で、    泣いていいから 、 」






彼の紡ぐ音がすぐそばで聞こえる。心地良くてあたたかい腕の中で彼の心臓の音がする。 わたしに気を使ってそっと抱きしめるやさしさに、涙腺がこわれそうになる。




















「 ひとりで泣くな 」









































自分が傷ついたときにだけここにきて、彼に縋って困らせて。 彼の気持ちに気づいても、知らないふりをして傷付けている。


わたしは、最低だ。












なきたいくらいくるしくてうれしい
なのにどうしてやさしいこのひとの手をとれないの、





20091118
「しあわせにならないで」とセットです // 彼女視点