今日は私の誕生日。 ( 正確にはあと30分 )
嗚呼きっと、世間にあふれている恋人同士だったら、 一緒においしいもの食べて、プレゼント渡して受け取って、 あまーい時間を過ごしちゃうんだろうな。 わたしも女だ。我が儘を言えば、いつだって一緒にいたい。何日も会えないと寂しい。 忙しくたって誕生日くらい会いたい。一番に「おめでとう」と言いに来て欲しい。 ・・・・・・だけど、そんなこと口が裂けても言えない。 わたしたちにはそれが簡単に出来ないから。 いわゆる、遠距離恋愛ってやつだから。 もう少しで、今日が終わる。 日付が変わったら、特別に感じていた今日は普通の一日に戻る。 しかし未だに彼氏であるあの男の口からは一向に「おめでとう」の言葉は吐き出されない。 それどころか連絡ひとつ、よこさない。 本当は日付が変わった夜中から、今日一日ずっと馬鹿みたいに待ってた。 いつもは全く気にならない携帯電話を常に傍に置いて、着信音が鳴るたびにわくわくとがっかりを繰り返して。 そんなことを考えているうちに電話が鳴る。 ディスプレイは、ちょうど今頭の中にいたあいつ。 ( 今日が終わるまであと15分。遅いわ馬鹿野郎 ) 「 はい、」 「 もしもし? 」 「 もしもし、」 「 よかった、間に合った! 」 「 なんですか 」 「 なに、怒ってんの? 」 「 怒ってなんかない 」 間に合った、ってあんた。あたしがどれだけ待ってたと思ってんの。もしかして忘れてたの。 ・・・言いたいことを飲み込んで返した声は、自分でもわかるくらいにイライラを含んでる。 怒りたくなんてないのに。誕生日なのに。おめでとうくらい言ってくれたっていいじゃんか、 そんな私のことなんてお構いなしに彼は続ける。 「 あ! なあ おい、 」 「 なによ 」 「 今日帰ってから郵便ポスト見た? 」 「 見てない 」 「 え!ちょ、馬鹿かおまえは!いますぐ走って見てこい! 」 「 はあ? なんで馬鹿呼ばわりされなきゃなんないのよ 」 「 いいから! 」 ・・・意味分かんない。なんかもう怒る気力もない。 何なんだこいつは。日付が変わる寸前に電話してきて、 誕生日なのに「おめでとう」の一言もなしで、ポスト見て来い なんて。 本気で忘れてるんだ、きっと。なんだか自分が馬鹿みたいで泣きたくなった。 耳元で彼が急かす。 とりあえず、わけもわからず言われたとおりにドアを開けて郵便ポストまで足を進める。 ( もうなんだっていいや、 ) 階段を下りて郵便ポストへ。 普段はDMだらけで頻繁には開けないそこに、珍しく一枚のポストカードが入ってた。 送り主は、 電話の向こう側の彼。 何か書いてある、そう思って目を走らす。数行だから一瞬で読むことが出来た、 それ。 彼の汚い字で書かれた、たった数行のメッセージ。 どこにでもあって平凡で、だけど独りで暮らしていればなかなかもらえないその言葉に。 いままでイライラしていたことなんかすべて忘れて、 不覚にも泣いてしまった。 ( だってこんなの、ずるい ) 「 ・・・・・・見た? 」 「 うん、 」 「 なに、 ちょ、 え? 泣いちゃってんの? 」 「 、うん 」 「 泣くほど嬉しかった? やった 大ー成ー功ー! 」 「 、 うるさい 黙れ おまえホントに 」 「 ははは、 おれからの愛を感じちゃっただろ? 」 「 うん、悔しいけど 」 あはは、素直だな今日は、 と電話の向こうで爆笑する彼に怒鳴って、 少しの間の後「 ありがとう 」を伝えると、彼は満足そうにもう一度笑った。 わたしもつられて、ただ止まらない涙を拭いながら笑った。 さっきまでの自分はどこかに行ってしまったみたいに。 遠い距離で簡単に会いに行けないけれど だけどぼくたちは、 この手が届かずともそばにいる おかえり 今日も頑張ったな 誕生日おめでとう 「 たんじょうび、おめでとう 」 20091107 20091117, 加筆修正 |