「 いつまで待ち続けるつもりなの? 」 もうその問いかけは聞きあきた、とばかりに私はため息をひとつ。 すると目の前の彼女は ちょっと、 とでも言いたげに睨みをきかす。 彼女はきっと私の心配をしてくれているんだろう。 だってあれから季節は巡るだけで、私は何一つ変わらないまま生きているんだから。 恋もしない、友達も作らない、本当にあのころのままでいる私が惨めに見えたんだろう。 私は人を待っている。 もう 何年経ったのかも数える気がしない、くらい。 「 ねえ、 好きだったの? だから今でも思い続けてるの? 」 彼女は続ける。私を真っ直ぐ見つめたまま。 ( 嗚呼まったく強情だこと、 ) そう聞かれたときの私の返答は決まっている。 「 すきだったよ、人間としてすっごくすきだった 私を救ってくれたから 」 その言葉に嘘はない。ただこの感情は恋愛ではないのだと思う、あくまで私は。 私のどん底だった毎日にあいつがただ居てくれて、私は心底助けられて息をしていた。 性別こそ違ったけれど変なところで気があって、一緒にいることが多かった。 ひねくれ者で冷めているあたしには、同性といるよりずっと楽だったのだ。 男女の友情とでも言うのか、だけどやっぱりうまく名前は付けられない。 そんな彼は突然居なくなった。 どこで息をしているのかも、何をしているのかも、誰にも告げずに消えてしまった。 あの日からずっと、電話もメールも繋がらないまま。 生きているのかも、死んでいるのかも、何一つわからないまま。
たとえば誰かに恋をして
たとえば誰かと仲良くなって 日々を生きていくことは忘れることに似てる あんたと過ごしたあの日々が上書きされて 少しずつ遠退いていくのだから だから私は馬鹿みたいに変わることを拒み続ける あのころのままで居たくて こんなの、間違っているかもしれないけど 「 あんたがいつまでもひとりでいることないんだからさ、 」 「 うん 」 「 待つ理由が恋愛感情じゃないんなら、 だったら、 恋したって友達作ったっていいじゃない 」 「 うん、 だけど そんな気にはなれなくてさ、」 「 でも、 それじゃ もしあいつが現れたときに別人みたいになってたら、」 「 うん 」 「 もう昔のことなんて忘れてたら あんた、時間無駄にしただけじゃない」 「 そうだね、 でも なんかうまく割り切れないんだ 」 彼女は淡々と話す私に、バツが悪そうな顔をして やっぱり誰か紹介しようか? などと言い出す。 彼女の言うことは正しいと思う。 もうあいつは過去のことなんか全部忘れて新しい人生を歩んでいるのかもしれない。 捨てたかったから、誰にも告げずにいなくなってしまったのかもしれない。 だけど、でも。 そんなのは全部推測で、あいつの気持ちは何一つとしてあいつの口から聞いてない。 だから私は少しも動けずにいる。
ねえ、せめて
「 さよなら 」を言ってから、居なくなってよ 「 もう構うな 」 でも 「 うるせえよ 」 でも、 何だっていいから私にその口で話してよ ( そしたら私も 「 さよなら 」 言えるから ) あんたにまだ伝えてないこといっぱいあるんだよ 「 ありがとう 」 も 「 ごめん 」 も、山ほどあるんだよ ごめんね、 私はあいつにちゃんと言いたかったこと全部伝えるまで、過去のことにするわけにはいかないんだ。 忘れるわけにはいかないし、変わるわけにもいかないんだ。 楽しくて幸せになんかなるわけにはいかないんだ、よ。 だけどそれはあいつのことを一番に考えてる、 なんて “いい人” なんかじゃなくて、 全部自分のため、なんだよ。 自分がスッキリしたいから、自分が終止符を打ちたいから。 だから悲劇のヒロインみたいな顔してずっと待ってるの。 少しも自分を犠牲になんてしてないし、私は結局自分が一番可愛いんだよ。 、そう言ったら彼女は黙り込んでしまった。 ( ほんとに、ごめんね、 心配してくれてありがとう )
もう一度あんたに会いたい
またあんな日々が戻ってきてくれたらいい あのころと同じように生きていけたらいい あんたが変わらずいてくれればいい そんなふうに願ってる でもそれは本当は自分が傷つきたくないから 私はどこまでも自分勝手だ 私のポケットにはいつも ありがとうと さよならと ごめんなさいが入ってる。 20091104 |