彼女は自分の弱さを見せない。



































電話越しに聞こえた声に違和感を覚えて、
「   どうした、?」 と問えば彼女は黙り込んでしまった。
「 いまからいく 」 と、それだけ吐き出して、車のキーを引っ掴んで家を出た。























彼女の家に着くと、いつも通りカギは開いていた。
玄関を抜けてリビングへ足を進めると、彼女は灯りのない部屋の中でソファーの上に縮こまっていた。
なるべく明るくなるように、彼女に言う。





「 電気くらい、つけなよ 」


「         ごめん、  わすれてて 」





ぼくの声に顔を上げてくしゃりと彼女は笑顔を作ったけれど、どうやっても無理矢理だった。
そっと傍に近づくと、何も言わずにぼくの座るスペースを作ってくれた。
ゆっくりと腰をおろして彼女を見る。





「 なに? 」


「 いや、何でもないよ 」


「 へんなの   びっくりしちゃったよ、 突然電話切って飛んでくるんだもん 」





彼女はぼくをみて笑う。またへたくそな作り笑いで。
見ていられなくなって、そっと手を伸ばして彼女の頬を両手で包む。





「 ちょ、どうしたの   な に、 いきなり、   おかしいよ? 」


「 おかしいのはそっちだよ         なにかあった? 」





努めてやさしく届くように、あやすように、ゆっくりと真っ直ぐに彼女の瞳をみて尋ねる。























数分の沈黙。やっぱり、なにも言わない彼女。
だけど   確かに揺らぐ瞳と、歪む顔。


ぼくの眼に負けたように、
ふう 、  と息を吸って彼女が小さく静かに言葉を紡ぎだす。



































「 ときどき、ね  どうしようもなく悲しくなるんだ 」


「      消えてしまいたく なるの、 」



































嗚呼、
彼女が抱えているものは何なのだろう。彼女を苦しめるものは何なのだろう。
ぼくに計り知れるのだろうか。
もしかしたらそんなこと、到底無理なのかもしれない。
ぼくに出来ることなんてたかが知れているかもしれない。 ( だけど、  )





彼女はきっと明日には何でもなかったような顔を作るだろう
だから、   いまは、




































「  泣いて、いいんだよ  」



































ふ、  と彼女の呼吸が聞こえる。
彼女の涙がぼくの手を通り抜けて、ぽたりと床に吸い込まれていく。























「     ごめ、ん 」


顔を歪めて、精一杯に声を殺して、   彼女は静かに泣く。
きっとこんなふうにしか泣けないのだろう。
彼女はいつも哀しみを蓄えて我慢してしまうから。


彼女の頬を包んでいた自分の手を、そっと離す。
そのかわりに彼女の手をかるく引いて、こちらに引き寄せる。
一瞬怯んだ隙をみて、腕の中に閉じ込める。
何かを言おうとする彼女を、すこし強い力を腕に込めて阻止する。





何も言わなくていいから   すこしこのまま、



































ほんとうに怖いくらい静かに泣く彼女を腕の中で感じて、ぼくは大きく息をする。
彼女が消えてしまいたくなるというのなら、ぼくには何が出来るだろう。




ぼくに  哀しみを吐き出して



















































































きみの強さを知っているから、だからこそ心配になる
きみが弱さを隠さずにありのままでいられればいいと思う、のに
ぼくはきみの不安を拭えないだろうか


いつか ぼくは、 きみが消えたくならない理由になれないだろうか?





きみを傷つけるものすべてが



































おぼえて、いて


もしも、きみが
世界に独りぼっちだなんて思う日が来たなら、それは違う
ぼくがここで、この世界の隅っこで、きみの味方でいる

















( 馬鹿みたいだって、笑ってもいいよ )




20091104