約束など要らないのだ。 果される日を待ち続ける約束など人を縛り付けるだけだから。 そんなもの、きみにもわたしにも 似合わない。 (わたしたちは自由に生きようと決めたから) 見なれた街並みはいつもと同じなのに。 歩きなれたこの道を彼と歩くのは、きっとこれが最後。 彼は遠いところへ行ってしまうから。 「 なあ、」 「え?」 「 空、青いな」 ふいに彼が空を仰いで、言う。 「きっと俺が行くとこ、こんなにきれいに空見えないと思うから、さ」 「 うん」 「最後に、おまえと見れてよかったなって、思ってさ」 「 なに」 「だって俺、 おまえとこの道歩きながら、こうやって空眺めるの好きだったから」 はは、ほんとよかったわ、 彼はそう言ったきり何も喋らなかった。 わたしもただ空を仰いで静かに彼の隣を歩いた。 ゆっくりと歩きながら、彼はこの空の青さを目に焼き付けているように見えた。 少し距離があるはずなのに、不思議とすぐに駅に着いてしまった。 いつもよりずっと早くて、何だか嫌で、もう少し彼の隣にいたいと願ってしまった。 (だけど、もう、) 彼と過ごした毎日が頭に浮かんでくる。 喧嘩したり苦しいことだっていっぱいあったはずなのに、馬鹿みたいに楽しいことばかり。 そんな事をしている間に彼は荷物を持って、発券を済ませて。 (嗚呼 彼が、 行ってしまう) 彼はわたしを見て、 「元気でな」 なんて言うから、泣くわけにはいかなかった。 「 がんばれ」 そんな無責任な言葉しか思い浮かばない自分に、嫌気がさした。 (これが、最後なのに) 「んじゃ、 いってきます」 彼はそう言ってやさしく笑って、わたしの頭を軽く叩く。 そして背を向けて歩き出す。 ねえ、 こんなこといままで一度だって思ったことなかったけど、 こんなの自分らしくなくて笑えてくるけど、 いまこの瞬間、 時が止まればいい なんて、心底思ったんだ。 改札口に吸い込まれていくきみの背中を見ながら、涙を堪えながら。 この身が絶望に染まろうとも 見上げた空は変わらず青かった。 空の青さがこんなに残酷だなんて、思ったことなかった 「 またな 」 「 待ってて 」 そんな不確かな言葉なんて要らないから どうかこの空とわたしを 忘れないでいて 20091102 |