彼女は変わっていた。











周りから嫌われていたというわけでも、避けられていたというわけでもない。 何と表せばいいのかわからない。 だけど彼女はまるでこの世界の人間じゃないみたいに、この小さな教室に存在していた。 同い年の他の女の子がするようにおしゃべりもしない。馬鹿みたいに笑ったりもしない。 ただいつもぼんやりと窓の外を見ていた。 ずっと、ずっと遠くを見ているみたいに。


兎に角、いまどきの女子高生ではなかった。



































「馬鹿みたいじゃない?」


「・・・なにが?」







忘れてしまうようないつかに(そのときはまだわたしたちはお互いを名字で呼んでた)、教室で彼女は言った。 わたしはいきなりの彼女の言葉に一瞬固まって、間を置いて返した。 彼女は「アレ、」とでも言いたげに、眼だけを教室で群れを作る女子に向けた。







「何が楽しいんだろうって。昨日のテレビの話とか、流行のファッションだとか。」


「そんな事にしか興味ないのかな」


「そんな事でしか会話できないのかな」


「うんうん、そうだね、ってマニュアルみたいに。 それがたとえ自分の興味のないことだとしても。」


「あれ、楽しいのかな」







彼女はぽつりぽつり、そんなことを零してつまらなそうに視線を外す。 そしてまたいつものように窓の外を見ていた。 あの遠い未来を見ているみたいな眼をして。


だからだと思う。
わたしは彼女がとても気に入っていた。(気に入る、だなんて失礼だけど)


わたしと同じだと思ったから。















































それからどうやって仲良くなったのか、正直そのへんはよく覚えていない。















































わたしたちは田舎の小さな街に生まれた。
山に囲まれていて海はほど遠く、おしゃれなビルなんて皆無で、電車は一時間に一本だけだった。 冬は簡単に氷点下まで冷え込んで凍える寒さの雪国。 だから高校を卒業したら、同級生の半分はこの街を出る。 大学に通うにしても、就職するにしても、この街は不便過ぎるから。


わたしはそんなこの街が、嫌いだったわけじゃない。 だけどわたしの欲しいものはきっと此処にはないんだって思っていた。 だから迷わず進路は東京の大学に決めた。 彼女も自分の夢を追いかけに街を出る。外国に行くのだという。 「らしい選択だね、」と言ったら彼女は笑っていた。















































高校生でいられる最後の日、他愛もない話をして辿り着くいつもの分かれ道。 本当にいつも通りだった。そのときまでは。






「                    、」






彼女は小さく、笑いながら言った。 たった数秒なのに耳に焼き付くみたいに鮮明に聞こえた。 驚いて彼女を見ると、さっきまで笑っていたはずなのに歪んだ顔をしていた。今にも泣きだしそうに。 だからわたしまで泣きそうになった。 変わり者のわたしたちには、わたしたちだけだったから。 寂しいのは友達と別れることでも、うまく友達が作れないことでもない。 もうこんな友達はできないと思ったから。






「うん、わたしも」 


「それまで     バイバイ、」






それだけようやく吐き出して、手を振った。わたしたちは別々の道を静かに歩き出す。















































決して甘くない世界に、何も知らないちっぽけなわたしたちは戦いに行く。


このままこの街に残って、平凡に恋をして、結婚をして、子供を産んで。 その日々の途中で、会って話をしたり、悩みを打ち明けたり、子供同士を遊ばせたり。 それだって幸せな人生だ。だけどわたしたちにはそれが出来ない。


夢を追いかけに行くと決めたから。


彼女も私と同じように生きていく。だから寂しくは、ない。 いつかこの街で、また会えたら。そんなことを思った。









涙が止まらない。












「夢を叶えたら、」「会いに行くよ、あんたのところにいちばんにさ、」


彼女はそう言って笑ったので


馬鹿、言う事が男前過ぎるよ。
こんなんじゃあたしたちの大嫌いな「いまどきの青春物語」だよ。




20091024
20091118, 加筆修正