#036


高校最後の冬
凍りつくほど寒い、生まれ故郷


この街を出ていく少し前
ぼくの教室に彼がいた
ぼくを見つけて彼は
ぼくの名前を呼んだ


やわらかく笑う彼の顔を見ながら
彼を見るのは、彼が僕の名前を呼ぶのは、
これが最後かもしれないと頭の片隅で思っていた


きみのまえで昔のように振舞えていたかな
あのときぼくはちゃんと笑えていたかな






帰り道
堪えきれずにぼくは泣いた


五感に
こころに
染み込ませて、焼き付けて、
最後になるかもしれない君の笑顔を
忘れる前に思い出していた


冬の寒さが頬を刺して
嗚咽を吐き出す
息は白かった


だけど涙は熱かった











#037


あの街のように
やわらかい夏の風を感じることが出来ないこの街で
ぼくは今日も星を探す
でも此処にあるのは
墨汁色の空と息のしづらい灰色の空気


満天の星が見たかった


この街の空もあの街の空と繋がっているんだ、って
気休めでもいいから思いたかった











#038


しあわせになりたいなんて
しあわせの意味もわからないのに、ね


それに
大それた願いに思えるんだ


もう
あんなふうに
心が満たされることなんてない気がするの











#039


ほんとうはわかっているんだよ


いまのままじゃいけないって
忘れていくのはしかたないことなんだって
止められないんだって


だけど認めたら
足元崩れ落ちてく気がする
何もなくなるんじゃないかって思う






せめて何かに縋りつかせてってそんなこと考えてる


ぼくはずるくて弱い人間だよ











#040


あの街の夜は真っ暗だった
街灯もなくて怖いくらいで
でも、
だから、
星がよく見えた


あの街の夜は静かで
まるで世界が止まったみたいに
時間の流れも見えなくて


それが、
すきだった











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