#011 きみのあの姿を見ることのないまま、 生まれ育ったあの街を出たのは まだ少し肌寒い、一年前の春の始まり 季節は巡って一年が過ぎたのね きみのいない春夏秋冬に きみのいない街に ぼくは 一年経った今でも 慣れることなんてないんだ 一度だってきみを思い出さない季節はなかった きみはきみの街で また季節を重ねて またひとつ年を取っていく ぼくの記憶の中のきみは、いまでもまだ18歳のまま きみは、元気ですか どうか笑って大人になって #012 いつかまた彼に逢えたら 昔の話をして 懐かしいな、と笑いたい たぶん せつなくて胸が痛むだろうけど 彼が笑うなら そんなことはどうでもいい 面と向かって しあわせですかとは問えないけれど 聞きたいことがたくさんある いつか また 彼に逢えたなら #013 あのことばを こころの真ん中に焼き付けておきたかった あのことばだけはいつまでも あの瞬間のままで在ってほしかった そう望むことはなんて愚かだろう 出来損ないのぼくの脳の中で 記憶はただいつまでもきらきらと輝いていく、 そんなふうに美化されていくのに #014 きっといまごろあの街の桜は満開だね 不思議だね ぼくの街じゃとっくに散ってしまったのに だからときどき まるで異国にでも住んでいるような気がしてならないんだ 此処に住んで一年が過ぎたいまでも、うまく適応できないんだ ぼくは あの街の少し肌寒い春の温度が嫌いじゃなかった あの土手を、ひたすら時間をかけて空を仰ぎながら歩くのがすきだった きみも好きだったあの風景が 恋しくて仕方がない #015 きみの笑顔に心奪われない日はなかった きみの言葉に涙しない日はなかった きみの存在に、救われない日はなかった back |